学術活動

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炎症性腸疾患の最新治療法 将来有望な治療法が次々に登場

 炎症性腸疾患の治療に生物学的製剤が用いられてから既に10年以上が経過し、インフリキシマブの長期的な安全性はある程度確認された。まだ未解決の問題は多いものの、新しい抗TNF-α抗体製剤や白血球除去療法など有望な治療法が加わってきた。

IBDセンター

生物製剤治療の現状

 生物学的製剤として抗αインテグリン抗体、抗IL-2受容体抗体、アンチセンスNFκBなど多岐の作用部位に対する治療法が試みられている。ここでは抗TNF-α抗体製剤について概説する。インフリキシマブ(商品名レミケード)の治験の経緯、ACCENTⅠ、ACCENTⅡなどのクローン病に対する有効性、副作用、ATI(antibodies to infliximab)の発現率などの詳細は別紙に譲ることとする1)。

 インフリキシマブに関する最近のトピックスは、5807人のクローン病患者を対象とした有効性と長期間使用における安全性を報告したTREAT Registry Studyと、インフリキシマブが潰瘍性大腸炎の緩解導入療法、緩解維持療法に用いる薬として有効性が報告された点であろう。

 TREAT Registry Studyは、クローン病治療におけるインフリキシマブの長期的な安全性を評価したもので、2850人のインフリキシマブ治療群と2957人のほかの治療選択群を比較している。まだ中間報告であるが、両群の間に重篤な感染症の発生率、観察中の死亡率、悪性疾患の発生率、妊娠時の流産の発生率、新生児の合併症などに有意な差はないとしている。特筆すべきは重篤な感染症の合併率、死亡率はステロイドや麻薬性鎮痛薬投与中の患者に多かった点である。

 インフリキシマブの潰瘍性大腸炎への適応拡大が試みられ、ステロイド抵抗性潰瘍性大腸炎に対しrescue therapyとして有効であったと報告されている。その内容はインフリキシマブ群とプラセボ群の3カ月以内での手術施行率を見たものだ。また、つい最近、364例の中等症・重症潰瘍性大腸炎を対象に、インフリキシマブの活動期潰瘍性大腸炎に対する緩解導入効果および緩解維持効果(ACT1 Trial62施設、ACT2 Trial55施設)の結果が報告された2)。インフリキシマブの有効性とステロイド離脱率の増加を認めている。

表1 炎症性腸疾患において治験がすすめられている抗TNF-α抗体製剤(2005年1月現在)
製剤 会社名 対象疾患 治験
インフリキシマブ
Infliximab
セントコア&
シェリング・プラウ
クローン病 Phase Ⅳ
潰瘍性大腸炎 Phase Ⅲ
Adalimumab(Humira) アボット クローン病 Phase Ⅲ
CDP870(Cimzia) UCB クローン病 Phase Ⅲ
CDP571 UCB クローン病 Failed in phase Ⅲ
潰瘍性大腸炎 Phase Ⅱa
エタネルセプト
Etanercept
アムジェン クローン病 Failed in phase Ⅱ
Onercept セローノ クローン病 Failed in phase Ⅱ

新しい抗TNF-α製剤に期待

 インフリキシマブ以外の抗TNF-α抗体製剤としてはAdalimumab(Humira、D2E7)とCertolizumab pegol(Cimzia、CDP870)で臨床効果が認められている(図1)。表1は抗TNF-α抗体の特性と治験状況の概略である。Adalimumabは完全ヒト化型IgG1モノクローナル抗体である。Classic 1 Studyでは、従来の治療法(5-アミノサリチル酸、ステロイド、6-メルカプトプリン/アザチオプリン、メトトレキサート)に抵抗するクローン病に対して4週での評価を行い、Adalimumabは用量依存性に有効であった。その後uncontrolled studyではあるが、インフリキシマブ投与により、acute infusion reactionや遅発性の過敏反応などが出現したり、薬効が消失してしまった症例に対して、Adalimumabの有効性を認めた2報の報告がある。

 米国消化器病学会(AGA2005)では、Adalimumabの大規模な長期効果をみたClassic 2 Studyの結果が報告され3)、24週での緩解導入や改善率を評価し、33.2%が緩解を維持しており、71%が改善(CDAI:クローン病活性指標が70以上低下)を維持していた。

 Cimziaはヒト化型(97.9%)の抗TNFモノクローナル抗体で、PEG(polyethylene glycol)分子を結合させ、生物学的な半減期を長くしたものである。大規模なフェーズ3試験としては、米国消化器病学会(ACG2005)において、Cimziaの4週に1回の連続投与が26週時点の評価で有意に緩解維持効果を認めたと報告されている。なお、わが国でも本薬剤の皮下注の治験が行なわれる予定である。

図1 抗TNF-α製剤の種類と構造

図1 抗TNF-α製剤の種類と構造

IL-10遺伝子導入はクローン病に有効?

 IL-10欠損マウス(Cell 1993)に慢性大腸炎が発症する。この報告は炎症性腸疾患治療におけるIL-10の重要性を強烈にわれわれに訴えた。そしてヒトに対する多くの治験が欧米で行なわれてきた。しかし、残念なことにステロイド抵抗性・依存性のクローン病でも、潰瘍性大腸炎においても、300名を超える大規模なスタディでリコンビナントIL-10の経静脈、皮下注による有効性は認められなかった。

 しかし、IL-10導入乳酸菌が生理活性を有するIL-10を産生し、胃管よりその乳酸菌をモデル動物に連日投与するとDSS(dextran sulfatesodium)腸炎マウスの組織学的改善を示した。この結果はIL-10の新しい活路を見出している。AGA 2005において活動性クローン病10例に対しての有効性が報告された。

血球除去療法が有望

 血球成分除去療法では、日本抗体研究所が開発した顆粒球除去療法用の吸着剤(商品名アダカラム)と、旭メデイカル社の白血球除去療法用吸着剤(商品名セルソーバ)が主に用いられている。筆者らは両者共にステロイド抵抗性、ステロイド依存性の潰瘍性大腸炎患者に対してステロイド減量・離脱効果を示しながら高い頻度(70~80%)で緩解導入に成功したことを報告してきた4)。

 この1年の間には海外からもアダカラムの潰瘍性大腸炎に対する有効性が報告された。英国からはステロイド抵抗性の潰瘍性大腸炎に対して、スペインからはステロイド依存性の潰瘍性大腸炎に対する報告である。米国では2004年6月から、sham columnを用いたスタディが始まっている。

 栄養療法に抵抗性のクローン病に対しても、アダカラムの有効性が認められている。クローン病に対する保険適用は現在、申請中である。

豚の寄生虫卵がIBDを改善する

 潰瘍性大腸炎に対しブタの鞭虫(Trichuris suis)の生きた卵を2週間に1度2500個、経口摂取し12週間観察した研究が報告されている。プラセボ群を対照とした二重盲検比較試験により、それぞれの有効性は43.3%、16.7%と有意に虫卵群で効果を示した。しかし、緩解導入された患者はそれぞれ、10%、4.2%と非常に低いものである5)。他方、活動性クローン病患者に対してもオープンラベルスタディの結果が報告されている。潰瘍性大腸炎の場合と同じように、ブタの鞭虫の生きた卵を3週間に1度、経口摂取し24週後に評価したものである。服用開始24週後の評価で21/29(72.4%)が緩解導入(CDAI<150)された。ともに安全性には問題なかったとしている。

クルクミンの抗炎症効果

 クルクミンはカレー粉の成分として世界中に広く使われているスパイスだが、様々な薬理作用(抗腫瘍効果や抗炎症効果など)が報告されている。われわれは最近、クルクミンがマウスの大腸炎モデルで大腸炎の予防と治療に効果があることを報告した6)。この知見をもとに緩解期の潰瘍性大腸炎患者に対しクルクミンの緩解維持効果があるかどうかについて、ランダム化プラセボ対照比較試験を行なったところ、有意に再燃率の抑制効果を認めた(投稿中)。

免疫調節剤の有効性の予測因子

 常用量のアザチオプリン(AZA)を6カ月以上使用している炎症性腸疾患患者のうち、AZAに反応しない患者を対象にAZAを増量(25-50mg/day)し、6-TGN(有効成分であり、かつ高値で毒性を示すとされる)濃度をモニタリングすることにより以下の知見が報告されている。

 AZAを増量することにより、無効例の33%が有効性を認めた初期6-TGN濃度がすでに400pmol/8×108赤血球を超えている患者は、増量しても1人も新たな効果を認めていない――というものである。この場合は他の治療を選択すべきである。なぜならわれわれの知見からはチオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)活性は個人差が大きく、また日本人の場合は欧米人の50~70%のTPMT活性のため、6メルカプトプリン(6MP)、AZAの服薬量は欧米人よりも少量で効果が出現する可能性がある。私どもの病院では実際、6MP(6メルカプトプリン)、AZA投与患者の副作用の発現を最小限に抑えるために、定期的に赤血球中の6-TGNを測定することを必須としている7)。

表2 炎症性腸疾患患者に対するアザチオプリン(AZA)の長期有効性
クローン病に対する効果 潰瘍性大腸炎に対する効果
最初の4年間は再燃率を低下させる。
1.1回/年→0.2回/年(p<0.001)
最初の4年間は再燃率を低下させる。
1回/年→0.2回/年(p<0.001)
プレドニゾロン使用量を低下させる。
315mg/月→70mg/月(p<0.001)
プレドニゾロン使用量を低下させる。
299mg/月→63mg/月(p<0.001)
4年使用後は投与を中断しても悪化しない。 4年を超える使用で再燃率はさらに低下。
0.2回/年→0回/年(n=69、p<0.105)
疾患活動性持続例では4年を超える使用で再燃率が低下する。
(p<0.001)
AZA投与中断後再燃率は増加する。
0.8回/年(n=11、p<0.130)
1. ステロイドを使用していない完全な緩解症例は3~4年のAZA
治療後、投与中断しても有意に再燃率を上昇させないであろう。
2. AZA治療下で疾患活動性が持続する場合は治療継続が好ましい。
1. UCにおけるステロイド減量効果は非常に効果的。
たぶん4年以上でも疾患活動性を改善するであろう。
2. AZA長期投与を推奨。

対象:14施設におけるIBD症例1176例のレトロスペクティブ調査(3482patients years)

免疫調節剤をいつまで服用すべきか?

 免疫調節剤の6MP、AZAが潰瘍性大腸炎やクローン病の緩解維持期間を延長させることは、レベルⅠでその有効性が認められている。しかし、それらをいつまで服用すべきかは、依然議論のあるところである。服用4年後には非服用者と有意な差を認めないという報告から、それより長期間でも服用者はより緩解状態が維持されているというものまである。

 AGA2005ではヨーロッパ14施設で最長14年間のAZAを服用している炎症性腸疾患患者のレトロスペクティブスタディの結果が報告された。いわゆるハイレベル・エビデンスの手法による報告ではないものの、対象患者が1176名(潰瘍性大腸炎;818人、クローン病;358人)と最大規模のスタディであるがゆえに貴重な報告である。その結果を表2に示す。この報告は今後の免疫調節剤の治療指針のひとつの目安となるであろう。

 このように炎症性腸疾患に対する治療性はめまぐるしく進歩している。新しい治療法は今後さらに安全性の確認とエビデンスに基づいた臨床データによりいっそう厳しい篩にかけられていくであろう。

消化器病・IBDセンター長 花井洋行


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